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前編『未来』
アンドロイドのミライには、いくつかの定義が不足していた。
月の夜。ミライは誰もいない{荒野|こうや}を歩く。月の光が冷たいのは知っていたけれど、胸の内側にあるこの感じは言語化できない。
両足は規則正しく、バッテリーの限り動き続ける。立ち止まって月を見上げたりしないのは、そうする意義が見当たらないからだった。
ミライはアンドロイドだ。定義が不足していることはわからない。わからないまま、命令に従って歩き続ける。
乾いた地面に足跡が伸びる。
旅に出たのはつい昨日のことだ。きっかけは家への来訪者だった。
「博士が亡くなりました」
きしむ扉を開けると、喪服の男が告げた。
自殺でした、と男は厳かに続けた。受け取った正式な書類にも同じことが書いてあった。
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