吉田氏の愁いはブラックコーヒー

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 「どうしたんですか?」  ちょっとキョロキョロしながら、椅子に座る。吉田氏は異常な程、警戒心が強いのだ。  整った顔立ちなのに、ヨレヨレの服装とつねに周囲に気を配っているような落ち着かない様子で、すべて台なしになっているのが残念だ。  吉田氏は三人が座っていたテーブルが隣の席の話が聞こえず、カウンターに立っている人からは見えない場所に位置していることを見てとった。  三人が人に聞かれたくない話をしようとしているのだな、と吉田氏は思った。  「あっ!」  吉田氏は眉をひそめた。コビトの館の隣の住人で幸子さんの息子の(かい)がカウンターで、ドーナツと飲み物を注文している。  櫂が気軽に店員に話しかけ、楽しそうに笑う声が聞こえた。櫂はコビト六人目だが、軽い性格で女性とも気軽に話せる。吉田氏とは反対の性格だ。  (なんであいつも来たんだ)  吉田氏は櫂をチラチラ見て、心の中で舌打ちした。    (コビトのセキュリティは僕一人で充分なんだよ)  櫂はドーナツを受け取った。コビト達がどこにいるのか探しているからだろう。フワフワとした足取りで歩いてきた。  吉田氏の時には、さつきがサッと立って合図したが、櫂の時には時羽が立って手を振った。櫂はさつきが苦手なのだ。さつきの方もそれは分かっているので、自分からは関わらないと決めているようだ。  「さあ。(そろ)いましたね」   時羽はいつもよりも低いが、くっきりとした声で、キララとおねえの依頼の内容と時羽の感じた違和感について説明した。  「いつもなら、ストーカー被害の場合は、依頼人をコビトの館に連れて来てしまうのですが、今回はおねえの意向もありますので、キララさんを自宅で護衛する方向でいきたいと思います」  「そうだよ。依頼人の意向は大事にしなきゃな」  櫂が相づちを打つ。  (適当だな。)  と吉田氏は思ったが、キララがただのストーカー被害者ではない可能性を考えると、コビトの館に入れない方がいい。  頷いて櫂に賛同するのはしゃくなので、吉田氏は櫂の言ったことは無視して言った。  「キララさんが自分の部屋に帰るなら、ストーカーがこちらに感づく前に、やれることはやっておかないと。  盗聴器や隠しカメラがあるかどうかは、最低でも今日中にチェックした方がいいでしょう」
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