カフェオレにスパイスはいらない

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 海のある小さな町に古びた洋館が建っている。ひび割れた壁はからまる(つた)が抑えていなければ、崩れてしまいそうだ。  うっかり廃屋と間違えてしまいそうな外観だが、朝八時になると朝食のいい香りが漂ってきて、道行く人に人が住んでいると知らせる。  今朝のメニューは、しっとりと焼いたスクランブルエッグと大きなカップに入ったカフェオレだ。  「吉田さんにいただいた、クロワッサンとクルミとイチジクのふすまパンがあるよ。どっちがいい?」  かごに入ったパンをテーブルに運びながら、時羽(ときわ)が聞く。  時羽(ときわ)は、この古い洋館の住人であり、「小人の探偵事務所」のメンバーでもある。  「両方、食べたいな。時羽、お願い! 切って」  頼んだのはパジャマ姿であくびをしながら、たった今起きてきた、さつきだ。  さらさらのショートヘアで前髪がまぶたにかかっている。二人目の住人であり、やはりコビトのメンバーだ。  「そういうと思った」  時羽はパンを入れたかごの中から、刃がギザギザの小さなパン切りナイフを取り出した。  「時羽ちゃん、私イチジクが多めのところが食べたいな」  三人目の白雪が取り皿を並べながら頼んだ。  「うん、いいよ。じゃ、これかな?」  時羽は今切ったパンを他のと比べながら、白雪のお皿に乗せる。  「ありがとう、時羽ちゃん」  時羽を見つめてにっこりとほほえむ。白い肌にバラ色の頬、形のいい唇。  誰もがはっとするほど綺麗だが、それだけではない。お伽話(とぎばなし)のお姫様のような可憐(かれん)さは、まさに白雪姫だ。  「じゃあ、食べよう!」  いつの間にかさつきはパジャマからカジュアルなジーンズスタイルに着替えてきたようだ。長身なので古ぼけて膝の所が破けたジーンズもお洒落に見える。  「いっただきまーす!」  さつきは二人を待たずにさっさと手を合わせると、スクランブルエッグを平たい幅広のスプーンですくった。  「あれ? さつきちゃんはフォークじゃないの?」  白雪が首をかしげて聞く。ふわりと黒髪が肩にかかる。  (白雪の可愛さはいつでもバーゲンセールしてるな)  さつきはクククっと笑う。          
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