カフェオレにスパイスはいらない

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「フォークだとお皿にちょっと残っちゃうでしょ? スクランブルエッグが。このスプーンだと、ほら、きれいに全部すくえる」  さつきはスクランブルエッグをすくって、パクリと食べてみせる。時羽の作ったご飯はいつも美味しい。さつきはお皿を()めたいくらいだ。  「美味(おい)しーい!」  さつきが叫ぶのをみて白雪がうらやましそうな顔になる。自分の手の中のフォークを悲しそうに見つめるのを見て、時羽が笑い出した。  「白雪、ほら。スプーンに代えてあげる」  白雪は嬉しそうに時羽にフォークを返した。  「いいの? 時羽ちゃん、ありがとう。座ろうとしていたところなのに、ごめんね」  「いいのいいの。白雪が悲しい気持ちになったら、朝食がしょっぱくなっちゃうもん」  時羽は人の感情を舌で味として感じてしまう変わった体質の持ち主なのだ。  キッチンにもどると、スプーンとフォークを交換してきた。スプーンを白雪に渡して自分も椅子に座ろうとした時、事務所用の電話がなった。  さつきと白雪は口をモグモグさせながら時羽に首を振ってみせた。電話には出られませんアピールだ。  時羽は椅子に座るのを(あきら)めて、事務所の固定電話の受話器を取る。携帯電話があれば固定電話は必要ないのだが、探偵事務所の認可を受けるためには固定電話が必要なのだ。住所が定まっていない探偵事務所など信用できないということだろう。    「はい、小人の探偵事務所です。あっ、マネージャーさん。おはようございます」  白雪は電話に向かってお辞儀(じぎ)する。  「はい、いいですよ。ではお店が始まる前に、うかがいますね」  時羽が電話をきってテーブルに戻ってきた。  「なになに? 何だったの?」  さつきと白雪が聞く。  時羽は顔をしかめたまま、カフェオレを一口飲んだ。うげっと言う顔をするとため息をついた。  「マネージャーって、時々、独特な味がするんだよね。デスソースを薄くしたみたいな……」  「うえっ。(から)いね、それは……」  デスソースは激辛な味が特徴のソースだ。瓶にドクロの絵が描いてあるほと辛い。いくら薄めたとしてもかなり辛い。  さつきが気の毒そうに時羽を見ながらカフェオレを飲んだ。時羽には申し訳ないが、さっぱりした甘味とミルクが絶妙の味だった。
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