カフェオレにスパイスはいらない

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 三人のもう一つの職場、チルトゥルというクラブのマネージャーは、流行っているキャバクラを一人で経営している敏腕な男性なのだが、同時に話し方や挙動が女性っぽいので「おねえ」と呼ばれている。おしりをフリフリするモンローウォークで歩く姿が独特だ。  おねえが本当におねえなのか、柔らかい雰囲気にするための演技なのかは誰も知らなかった。  「独特な味ね。あー、うん。なんとなく分かる」  一番おねえとの付き合いが長い白雪は、納得したように頷いた。  「あっ、ちょっとさつきちゃん!」  白雪はテーブルに視線を戻したとたん、声をあげた。  「パンでお皿を(ぬぐ)っちゃうならフォークでもスプーンでも関係ないじゃない」  白雪の(とが)めるような視線を、さらりと受け流すと、さつきは最後のひとかけらを口に入れた。  「うん、そうだね。ごちそうさま」  立ち上がったさつきのお皿は、舐めたようにきれいになっていた。  白雪はちょっと複雑な顔をしたが、自分もパンできれいにお皿の上のスクランブルエッグを拭き取った。  「やだ。美味しい!」  口に入れると、目を見張った。クロワッサンにスクランブルエッグを乗せたパンは、それぞれを食べるのとは違う美味しさだった。  「ね?」  さつきは得意げな顔で頷いてみせた。白雪は時羽に手間をかけさせてしまったことを気にするのはやめたようだ。人の感情を味として感じてしまう時羽にとってもその方がいい。  「そういえば、電話越しにでも相手の気持ちは味がするの?」  白雪が聞く。
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