カフェオレにスパイスはいらない

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 「そうだね。普通はあまりしないけど、マネージャーは電話ごしにでも、時々あのデスソース味がするんだよね。強烈過ぎる味だからかな」  時羽はやっとマネージャーの味がしなくなったのだろう。クルミとイチジクのパンを手に取ると、パクリとかぶりついた。  「それで、おねえは何の用事だったの?」  お皿をキッチンの流しに片付けてきたさつきが、カフェオレのおかわりを時羽にねだりながら聞く。  「そうそう。コビトに仕事の依頼があるから、仕事の前に来て欲しいって言ってたよ」  ややこしい話だがチルトゥルというクラブの仕事に出る前に、コビトの探偵事務所に仕事を依頼したいということらしい。  「わあ! 一ヶ月ぶりの仕事だね!」  白雪が手を叩いて喜ぶ。  「白雪。先週、幸子さんからの仕事をしたじゃない」  とさつきが(とが)める。    「そ、そうだったね」  と白雪は斜め上を見ながら、ああ思い出した、というようにうなずいて同意するポーズを取った。しかし実のところ、幸子さんからの仕事は、新しい携帯電話を一緒に買いに行って欲しいというもので、探偵業とは全然関係なかったということを思い出しているようで、接客業で鍛えているはずの笑顔がやや固い。  幸子さんというのは、隣に住む年配の女性だ。(かい)という息子と二人暮らしをしている。  そしてコビトの探偵事務所の唯一のリピーターである。探偵業務に協力してくれたこともあり、自称四人目のコビトなのだ。  幸子さんの依頼の前の仕事は、やはり幸子さんが紹介してくれたのだが、近所に住む奥さまからで、庭木に登って降りられなくなったネコの三太を、降ろしてくれという依頼だった。    コビトの探偵事務所に白雪が就職してからというもの、白雪自身が関わった事件以外で受けた依頼はこの二つのみだった。  つまり最初に白雪が関わった事件以来、一つも探偵らしい仕事の依頼はなかったと言い切れる。  探偵業に限らずとも、仕事の依頼自体がほとんどないことを考えると、コビトの探偵事務所はようするにいつも暇だった。    
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