<前置きという、読者へのお手紙>

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 筆者である。そもそも筆者というのは、えらそうなものである。なにしろ、自分は物語の神さまのようなものだと思い込んだ、始末に悪い生き物なのだから、仕方が無い。  しかし、わしは、自分を”作者”だとは思っていない。わしは、筆の赴くままに、物語の登場人物の語る物語を必死に書きとめていくのが、仕事だからである。というわけで、今回、この物語を始めるに当たって、あるいはこうしたくどい舞台背景の話、読者諸君はお望みでは無いかもしれないが、こちらとしては少々知っておいてもらわないと困ることが在ると思うので、多少くどいと思われるかもしれないが、しばし、付き合って欲しいのである。  神様だと傲慢に構えているワリには、物語の下僕というのが、正直なところなのだ。というわけで、筆者としては、なかなかに、面倒くさいのだが、物語がそれを望んでいるのだから、仕方が無いとあきらめてくれたまえ。わしも、この物語がどうなっていくのか、まったくわかっていないのだ。しかし、それが、わしの小説作法なのであると居直るぞ。  そうだ、居直るしかないのだ。だから、なかなかに、きっちし彼らが結末を付けてくれるのか、毎回、ひやひやモノ・・編集者はなおさらだろうな・・なのだが、だからこそ、こういう物語が書けるのだと、諸君達も了見して欲しいものだ。  もし、うまくいかなければ?その場合は、わしが頭をかいて、”てへ、ぺろ”と舌を出して、謝るから。許してくれたまえ。  というわけで、君たちは、知っているか。日本には確かに愛知県という土地があり、愛知県には名古屋市という”大都市”が在るのだ。たぶん、学校の地理かなんかで教えてもらっているはずだ。地理だぞ。チリではない。  東京、大阪に続く日本第三の都市のはずだが、その名前は、田舎の代名詞のような扱いである。まだ、福岡、仙台、函館、横浜のほうが、都市としての扱いを受けている。  それはそれで残念で、哀しいことなのだが、まあ、そんなことを気にしても仕方が無いという悟りめいたそこはかとない諦念が、その住人にはあるのも事実だった。  ”偉大なド田舎”と揶揄されようと、住みやすい場所なのは、事実なのだから、よそ者がどんな評価を下そうとそれでいいかという発想である。
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