<第一章:薫>

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 特別の待遇を受けたら、教育上よくないと、この千年の教団の歴史の中ではぐくんだ智慧というものなのだろう。  時代劇を見るまでもなく、驕り高ぶった支配者を持った組織ほど始末に終えないものは無いからだ。反感を受けながら、せっせと墓穴を掘る。  どのようであれ、千年の長きに渡って生き延びるためにえた、それが智慧だった。  ”誠実であれ”とは、ただ表面的なものではなく、それがこの国の庶民の生き延びる智慧だった。  智慧は、世間知は、多くの失敗の果てに、獲得した、一種の本能のようなものなのだ。  薫という青年は、それが理解できる人物だった。だから、家にいるときよりも、この学園に居る時間のほうが、薫は肩肘を張らないで済むというのが正直なところなのである。  世間では、明陰道を、土着のお呪いのごった煮くらいにしか思っていない。明陰道も、あえて、それを否定することはしていない。しかし、”結果がすべて”だからだ。いかに、ありえない修法でも、効果さえ上がればよしとする、それこそ土着の民の智慧というものだろう。その動作原理がわからなくても、スイッチを入れればTVが点くことを知っていれば、とりあえずは、OKとするのが、庶民というものだからだ。俗物の父親、いささか漫画的でさえある父親を小さいころから見て育った薫は、子供心にあきれ果てていたのである。  それは薫が、幼いときに、どうやら自分には霞(かすむ)という異母兄がいるらしいと知ったことに関係があるのかもしれない。もっとも、妙に生々しい噂を聞かされたわけだが、でも今に至るも霞本人にあったわけではない。噂では、すでに物故しているということだったのだが・・確認しようも無いままに、まるで喉に刺さった魚の骨のように、心のどこかに引っかかった違和感が、ずっと続いているのだった。  まあ、そんなこんなで、薫は、将来の”安倍生命”として徹底した英才教育を受けていた。それが彼の本来の才能だったかどうかは確認の使用も無いが、今の薫のIQが、120をはるかに越えているのは間違いなかった。授業は、マジメに聞いていれば、”わかってしまう”のだった。  アニメやアイドル、特撮ヒーローに興味がなかったかといえば嘘になるが、そういうものに興味を持った時間は、他の少年よりかなり短かったのは事実だった。
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