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貴彦は、言われた通りに黄嶋の側を離れなかった。
黄嶋が離さなかった。
親族には練習した通りの型どおりの挨拶をし、それ以外は黄嶋がほとんど答えた。
取引先の社長や会長の場合、黄嶋と年齢が近い人が多かったせいか、孫を見るような目で優しく見てくれる人もいた。
そして、海外の取引先の相手に紹介されたとき、貴彦は流暢な英語を話し、さすが黄嶋会長の跡継ぎだと絶賛された。
「学校の方でも、まだ予想の範囲内の騒ぎしかないみたいだよ。」
入学式の日だと言うのに、2年生の教室の前を上学年の児童がうろうろしていたのは、親から言われて貴彦を見に来たのだろう。
大夢は「おじさんじゃなくてお父さんだったんだね。」としか言わなかったし、亜子は「亜子ねえ、亜子ねえ、パパから貴彦くんと仲良くねって言われたけど、そんなの当たり前よね、とっくに仲良しだもん!」とこれまた変わらない勢いでまくしたてられた。
偶然廊下で会った淡雪も、貴彦が黄嶋の実子だと知っていて「黙っているの大変だったね。」と逆に労ってくれた。
緑川先生からは何もなく、ちょっとだけ他の子からの視線が自分に向いているみたいだなと思ったくらいで、貴彦は今のところ変なちょっかいはかけられていないらしい。
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