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貴彦が小学校の制服を披露したその日の夕食の席。
一堂が介するダイニングルームは、壁際に絵画や壺などが飾られる贅沢な広さと豪華さだった。
そこでの騒動はやはり、オーナーの一言から始まった。
「それで、貴彦の入学式は誰が一緒に行ってくれるかなあ。」
のほほんと、普通の雑談と変わらない口調で出てきた言葉に、住人たちは全員手も口も止めた。
すぐに反応できなかったのは、仕方がない。
それほど意外な発言だったのだ。
「そ、それは・・・オーナーが入学式に列席しないということでしょうか。」
菅野がおそるおそる尋ねる。
「うん?僕は行けないよ。だから、誰かお願い。」
「あんた、父親でしょうが!」
いきなり激昂したのは、シンさんである。
複雑な家庭環境に育ったというシンさんは、家族問題に誰よりも敏感だった。
「何でオーナーが行かないの。たっくん、かわいそうじゃないか。」
デザートを運んできたコメさんが、そのワゴンの手を止めて非難した。
ワゴンの上には、ズコットと呼ばれるドーム型のケーキが乗っており、スポンジの中身は半解凍のチョコレートムースになっている。
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