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3日前からドイツ入りを果たしている黄嶋は、時差や他のスケジュールに関係なく、貴彦からの電話をとり、話を聞いた。
『今度、お父さんの前でもやってみせるね!』
館で一人発表をする思い付きを語った貴彦は、父である黄嶋にもそれを見せたいのだという。
そんなことを、黄嶋は先生に連絡してきた。
『週末は、貴彦の発表会になるだろうから、タオルをたっぷり用意しておくといいんじゃないかなあ。』
「何でタオルなんじゃ。」
『みんな年々涙もろくなってるから、泣いちゃうんじゃないかな。あっはっは。』
僕は、貴彦の発表より、それを見て感極まって涙ぐむみんなの顔を見たいから、それを隠し撮りしておいてよと黄嶋に言われ、先生は阿呆とだけ言い、電話を切った。
貴彦は、館を出てこれまで与えられなかった刺激を受けて吸収し、ぐんぐん成長しているようだった。
いずれ、もっとこの館について、自分達が何故こんなところにいるのかも、母親と呼ばせているあの墓についても説明する日がくるのだろうと、先生は心の中で密かに考えた。
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