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亡くなった彼女がことさら喜んでくれた花は、これから咲くのだと、ハナさんが教えてくれた。
「咲いたら、プランターに寄せ植えしてやるから、向こうの家に持っていくか。」
「うん!」
誰も彼も、彼女の話題を故意に避けようとはしない。
それだけ時間が経ったのだ。
亡くしたばかりの生々しい心の傷は、いつしかよい思い出になっていた。
先生は、それを噛み締めた。
ただし、その後、貴彦のことを世間に公開すると宣言した黄嶋は、相変わらず住人たちから責められた。
まだ5年も先の話だし、いつかはしなくちゃいけないしねえと言う黄嶋に、貴彦が成人してからでもいいのではと詰め寄るのはモトさんと菅野。
あんた、また無責任な真似しようってんですかと怒るシンさん。
記者会見の会場、今から押さえといて警備体制整えようぜ、責任者は俺なと面白がるヤクさん。
会場の料理は自分が作ると張り切るコメさんに、会場を飾る花は俺だなとやはり張り切るハナさん。
BGMも要りますよね~と作る気満々なオトさん。
これではまるで披露宴会場ではないかと住人たちの妙な張り切り具合にげっそりする先生。
その中で貴彦が楽しそうに笑っているーーそれがすべてだった。
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