給食試食会とコメさん

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冬休みの大半を、貴彦はマグノリア・マナーで過ごした。 黄嶋はクリスマスのあと仕事に戻り、約束通り大晦日に再び館を訪れた。 「正月の3日間はどうにかここで休めそうだよ。いやぁ、新年早々経済界の老獪なる面々と上っ面だけの挨拶合戦はしんどいからねえ。」 からからと笑う黄嶋に、体調が悪そうな様子はなかった。 クリスマスイブの日に、あとからノダさんが説明してくれると言っていたが、結局ノダさんはほとんど先生とヤクさんに何も言わなかった。 ヤクさんに追求され、病名だけをメモした紙を渡しただけだった。 教えてくれなかったと先生から文句を言われた黄嶋は、苦笑した。 「そうらしいねえ。僕もノダさんに説明してくれた?って聞いたら、首を振るんだから。医師の説明責任はどうしたって思ったけれど、あれはノダさんなりの遠慮もあったのかもしれないねえ。」 黄嶋いわく、現在黄嶋の研究所の一つで研究員をしているノダさんは、人と上手く向き合えずに優れた医師としての腕を振るうことができなくなり、それが心に大きな傷となっているのだという。 「ここで住人たちの健診と簡単な処置をすることで、少しずつ自信をつけていってくれたらと思っていたんだけれど。」 黄嶋は黄嶋なりに、ノダさんを選んだ理由があったようだ。
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