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他の子も貴彦と同じく写真だと思ったようで、あちこちから写真という声が聞こえてきた。
「それもあるけれど、その前に何があったなか?」
先生の問い掛けに、貴彦の前の席の大夢が小声で、「2年生のダンス?」と呟き、それを聞き取った貴彦は、そうだったと思い出した。
緑川先生から名前を呼ばれたのは覚えている。
返事をしたからだ。
写真を撮ったのも覚えている。
そのときの写真が家にあるからだ。
しかし、入学式のあと、写真撮影の準備までの間、2年生が歓迎の言葉とダンスを披露してお祝いしてくれたのを、すっかり忘れていた。
何もかもが初めて尽くしの貴彦は、ただ座って眺めているだけだったので、印象に薄かったのだ。
でも、言われてみると、流れてきた音楽に合わせて体も動いた気がする。
他の子たちの何人かが、音楽に合わせて小声で歌っていたから、もしかすると幼稚園や保育園ではよく歌われていた歌だったのかもしれない。
さすがに館の住人たちは、保育施設で子供たちが体験するすべてのことを貴彦にしてやれはしなかったので、たまたま貴彦が知らない歌があってもなんらおかしいことではなかった。
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