春の気配と貴彦

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それから、全員に紙が配られる。 「名前を書いて、入学式の歓迎の出し物に出たい人は、そのかっこの中に○を書いてください。」 貴彦は、当然のことながら○をつけた。 紙は後ろの席の子が回収して、先生のところに持っていく。 その紙を教卓の上でとんとんと整えながら、先生は言った。 「もちろん○をつけてくれた人を優先したいと思いますが、それだけでなく、これまであまり発表で前に出る機会の少なかった人にもお願いしようと思います。それと、ざっと見たけれど、○をつけてくれた人は10人以上いますね。なので、今回はごめんなさいってなる人も出ます。」 先生の言葉に、貴彦は『僕はどうか選ばれますように!』と祈った。 だって、お兄さんなのだ。 そんな魅惑的な立場で新1年生の前に立ったら、僕、絶対に大歓迎するからと、強く思う。 そのあとの休み時間で、案の定竜大が大声で俺は出るからなと言い張り、亜子も○をつけたと言った。 亜子がつけたのならば、美穂もつけただろう。 この1年、二人はいつも一緒に行動していた。
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