春の気配と貴彦

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住人にそう言った先生自身も、貴彦の部屋には行かなかった。 いつも通り、夜の見回りで館の中を一周する。 厨房で明日の朝食の仕込みをするコメさんを労い、早めに休むよう声を掛ける。 コンサバトリールームの戸締まりをしているシンさんに、今日一日のセキュリティを確認する。 ヤクさんがいれば、システム全体のチェックはヤクさん、実際に足を運んで敷地内の点検をシンさんと、役割分担が決まっていた。 ヤクさん不在の今は、菅野とモトさんがパソコンを使ってのシステム管理を行っているが、どうしてもシンさんの負担が重くなる。 菅野やモトさんに信用がないわけではない。 ヤクさんが構築していったシステムに、不正なハッキングがそうそう仕掛けられるはずもないこともわかっている。 しかし、頭ではそう思っていても、つい万が一と考えると、日々の警備に力が入る。 ヤクさんがいかにこの館を守ってきたか、それを住人たちに気取られないように軽薄に振る舞ってきたかを、一番痛感しているのは、シンさんだった。
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