CH1 - Living in the shell

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「じゃあ、アメリカ全体を映してくれないかな」  彼は全体図から自分の見たい場所――故郷である絶滅動物園――を探すつもりでいた。ところがズームアウトしていくにつれてまたもや困惑することになった。  映し出されたのは北米大陸の全体像だ。アラスカ・メキシコ・ニューファンドランドが頂点となる歪な三角形。そこまでは記録とも一致している。だがフェニックスからダラスまで広がる大砂漠と、太平洋・大西洋両岸の大森林は存在自体有り得ないものだ。彼のいた絶滅動物園は跡形もなく深い森に飲み込まれていた。 「そんな、カリフォルニアにも人が住んでるはずなのに……他の街もお願い」 《エルドラド》とも呼ばれた世界で二番目の大都市、首都ワシントンへズームインするが、かつての栄華を何一つ残していない廃墟へと変貌していた。路地を野生の犬・猫が駆け回り、朽ち果てた建物からカラスの群れが飛び立つ。舗装道路を樹木や蔦が覆い尽くし、倒壊した建築物が道路の乗り物を押し潰している。リスがボロボロになったケーブルを齧る様子も衛星カメラは鮮明に映し出す。此処に人が住めないのは誰の目にも明らかだ。 無残にもビルから落ちて砕け散った映画の看板が、アメリカという国が無くなったことを示していた。     
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