Prologue - I'm not straight

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 戦場に行った彼がどうなったのかは誰にも分かりません。ですが、二つの選択にはとても大きな意味があります。他の人のために自分を犠牲にするか、自分のために他の人を犠牲にするか。そのどちらが正しいのかを、二つのグループに分かれてディベートで考えてみましょう。 ――カトリーヌ・ルルー「ディベート入門」(二九九四年) 「……それで、あなたはこれが創作じゃなくて実際にあったことだと考えているのね?」 「ああ、そうだ。娘が一目見てみたいってんで作者に問い合わせたら、戦場写真家が撮影した写真にティラノサウルス型が写っているのを見たんだとさ。まずはこの記事を見てみろ」  薄暗い店内にたちこめる香ばしい薫りは、アニェス・ディオールの心を一呼吸するたびに落ち着かせる。カナダ・トロントは中心街にあるカフェ”L’amour et la liberte”のバリスタ、サミー・ピッコリが淹れるエスプレッソは学者仲間でも評判で、打ち合わせの際には大抵この店が選ばれる。内装が全て木で出来ているのが彼女の気に入っているもう一つのポイントなのだが、空調の効きが悪いのが玉に瑕だ。窓の外では北風に衣を吹き飛ばされた街路樹が新芽をつけ始めていた。     
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