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茶色い帽子とつなぎを着た中年の男が目の前に見える。アレックスの腹部の陰にアサルトライフルを持って座っている。砲弾が近くに着弾して映像が激しく揺れた。
『私はこれからSAU軍に降伏し、お前を解体させないよう説得しに行く。それが叶わなかったときは……パネルの文を読んだ人の良心に賭けるしかないな』
彼は自嘲気味に笑うとアレックス越しに敵軍の様子を伺い、ライフルの動作を確認して言葉を続けた。
『アレックス、最後にこれだけは言っておく――お前は私の自慢の息子だ。お前と出会えて幸せだった。これからもずっと、愛している』
マシンガンの弾丸が合金に当たって跳ね返る音が彼の真後ろから聞こえる。彼は驚いてカメラを取り落とし、太陽の光でホワイトアウトしたところで映像はぷっつりと途絶えた。
再び静かな平原へと彼の意識が戻った時、アレックスの視覚センサーからは何の液体も流れていなかった。かつて自分を愛した人間であった者の残骸をじっと見つめることが、彼に出来る精一杯の弔いであった。
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