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「一日の営業時間が終わるとボクたちはメンテナンスのためスリープ状態に入る。アイザックさんは技師の中でも一番丁寧だったんだ。故障は一度もなかったし、表面についた泥――この時はちゃんと皮膚があった――もきれいに洗い落してくれた。そしてスリープに入る前にいつもボクの頭に乗って夕焼けを眺めた。機械化した右手で撫でてもらってた。ボクのコピー人格は病死した十三歳の少年なんだ。アイザックさんも同じ年頃の女の子を事故で失った、って。その時に右手を機械化したとも聞いた。『コピー人格は魂じゃない、感を持っているかのように振舞うただのAIだ』。そんな言葉があるけれど、アイザックさんはボクにも魂が宿っていると言い続けていた」
太陽が地平線に吸い込まれていき、空の色は紅から紫へ変わりつつある。皆何も言わず彼の話を黙って聞いていた。
「ボクが園で働き始めてから三年経った頃、アメリカとSAUとの戦争が起きた。メキシコとの国境に近かった動物園はすぐに閉鎖されて、肉体を持つみんなは次々と殺処分されていった。最後にボクたち恐竜ロボットの番になって、この場で解体されるか兵器に改造して戦場に行くかを選ばされたんだ。ロッキーとブライアンは解体を、ボクは戦場行きを選んだ。両手にガトリングガン、お腹に爆弾を取り付けて敵軍に突撃する任務が与えられた」
言いながら彼は口に出せないメモリー上の光景を思い返していた。累々と積み重ねられる兵士の遺体、そこから流れ出す尽きることのない黒い血。サイボーグ兵の場合は抑制機構があったが、それはひと際感情豊かな彼に生々しい恐怖を今でも蘇らせる。
「それはまた災難だったな……戦争は人の一生を狂わせる。されど争いは尽きず、戦はあり続ける。誰が言ったかは知らないが。続けてくれ」
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