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アイザックと呼ばれた人間は作業の手を止めてアレックスを見上げる。右手を機械の義手へ替えているその男はアレックスを毎日手入れした恩人だった。ゴーグルをかけた彼の瞳はほんの少し水に濡れていた。
「……人間の都合にお前たちを巻き込んでしまって済まなかった」
「アイザックさんが謝ることじゃないよ。それに、ボクがアイザックさんを守るって約束したでしょ? アイザックさんが生きていてくれるならボクが壊れたって構わない。だから……これでいいんだ」
「…………」
アレックスには表情が与えられていないため、声のトーンと身振りでしか感情を示せない。自分の覚悟が伝わるよう上手く表現できたのか、確かめる間もなく上官からの出撃命令が無線で下された。
足元に立つアイザックは黙ってじっと彼を見つめている。胸部に格納されていたガトリングガンへ弾丸を装填し、空へ向けて数発試し撃ちをするとアレックスは目標地点を真っ直ぐ見据えた。
「それじゃあボク行ってくるね。さよなら、アイザ――」
その時突然彼の電子頭脳が機能を停止した。言葉は最後まで続かず巨体が地響きを起こして倒れこむ。光を失い虚ろになった彼の瞳を傍らのアイザックが悲しそうに見つめていた。
「これで、いいんだよな」
彼の呟きは近くに着弾した砲丸によってかき消された。次の轟音を合図にして、彼は一人荒れ狂う戦火の中へ飛び出していった。
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