一人の家

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 エルザは魔女だった。いつからそうなのか、どうしてそうなのかはわからない。しかし、気がついたときには既に魔女だった。  ヒキガエルや猫と友達になり、彼らが教えてくれたとおり、庭にはハーブをたくさん植えた。雨が降ればその水をコップに溜め、また次の恵みがあるように祈りを込めて飲み干し、買ってきた卵は、ひよこが孵ったときに窮屈で無いように玄関の隅に並べて置いた。たまにひどい臭いの薬を作る以外、概ね普通と変わらない生活のはずだった。  しかし、魔女という種類のイキモノは、どうやらそれだけで人の神経に障ってしまう存在らしい。  先週、隣町の魔女が火あぶりにされた。会ったことのない魔女だった。しかし、町の高台で行われた処刑の火は、イルザの家からでも見えるくらい明るく輝き、空へ向かって、高く、高くのびていた。きっと良い魔女だったのだろうと、イルザは思う。  近所に住んでいる魔女友達のサブエラは、その処刑が行われてすぐに魔女であることを止めた。真っ黒なローブの変わりに黄色のカーディガンを羽織り、あれだけ自慢していた高いヒールの靴を、かかとの低い靴に履き替えて、つむじ風のような勢いでイルザの家に乗り込んできた。  「隣の町で、魔女が火あぶりにされたって。」  「ええ、知ってるわよ。ここの窓からでも火がみえたわ。」     
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