一人の家

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一人の家

  狭い部屋に置かれた小さな机を支点にして、イルザはくるくると働いていた。  お昼までには、薬を完成させてしまいたかった。  イモリのしっぽを細かく刻みながらも、イルザの思考は止まることがない。  ___この薬が完成したら、お昼からは庭の草むしりをして、買い物に行こう。コウモリの爪が少なくなっていたけれど、あれは市場に売っているのだったっけ。新鮮な野菜も欲しい。もしいいものが見つかったら、今日の晩ご飯はサラダとカボチャのスープにしよう。  そう考えている内、エルザの手は無意識にカボチャが入った麻袋に伸びていた。そのことに気づいて、ハッと手を止める。  ___ちがう。カボチャのスープは夕飯で、今作るべきは大鍋のくすりだ。  みじん切りにしたしっぽを包丁で集めて、まとめて大鍋に放り込む。続けて、戸棚から胡椒とクチナシの瓶をを取り出し、その半分ほどを鍋に入れると、大鍋から灰色の煙が立ち上り、なんとも言えない強烈な臭いが部屋いっぱいに広がった。ここまで来れば、あとは中身が全部溶けるまでかき混ぜるだけだ。     
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