第1章

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     「煙草」  退屈な授業から抜け出し、数人の友達と一緒にカラオケではしゃぐ学生の姿がある。 花織は、今日も高校三年生の身でありながらも、学校を途中で抜け出し、遊びに明け暮れていた。 将来なんて、どうなってもいい。高校はこのままでも、どうにか先生に頼めば、卒業はさせてくれるだろう。卒業後は、今の母のように、水商売に費やせば短時間で大量のお金が貰える。友達とも、ずっと遊んでいける。 毎日、そんな考えの元、日々を過ごしていた。もちろん、花織のその考えを否定する教師や、友人も中にはいたが、家庭環境を告げられると誰もが口を噤む。 花織の産みの親である母は、出産後、病気を患い愛娘の顔を見る事も叶わず、他界。父はその日を境に、精神に異常をきたし、花織を親戚に預け、独り身になると、ギャンブルに走った。 ギャンブルに費やしたお金は、全て母の生命保険の物である事が発覚した頃には、花織は高校生になっていた。親戚の皆は、花織の事を可哀そうと決め付けては、ずっと甘やかし続けていた。 花織自身、自分の境遇に対する折り合いのつけ方が分からず、また、周囲からのいたたまれない視線をはねのける為、暴言を吐いたり、暴力をふるう場面もあった。 親戚はとうとう音を上げ、花織を追い出す決心をし、アパートの一室をあてがった。花織は、飛び上がる程喜んだ。 これで周りの変な気遣いから解放される。反発もしなくて済む。心の底から安堵した。家賃や光熱費は、親戚がずっと払ってくれた。 高校一年生の頃から、そのアパートで一人暮らしを始め、一年程経った頃、大きな環境の変化が訪れた。 父に再婚相手が出来たのだ。父より、まだ十五も年下の年齢であり、花織とは五つしか離れていない、若い女であった。 まさか、あんな父に寄り添う女がいるとは、到底思えなかったので、当初は冗談だと決めつけていたが、その女は図々しく、花織の母親代わりである事を振る舞い、合鍵を使って、勝手にアパートに入り込むようになった。 何でも、娘の一人暮らしはやっぱり心配だからだと言う。 花織には分かっていた。そんな事は、ただの口実であり、血の繋がりの無い母は、愚痴を吐き出す場所を確保したかったのだと。
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