第1章

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証拠に、ほぼ毎日花織のアパートに入り込んでは、勝手に煙草を吸い出し、再婚した父の性格や態度、金遣いの荒さについて、小一時間程は話し続ける。 聞いているほうの身としては、正直うんざりする内容の物ばかりであった。早く、離婚しないかと毎日、毎日、横目で話に耳を傾きつつ、適度に相槌を打ちながら思い悩んでいた。 また、母は部屋に上がり込む度、煙草を毎回と言ってよい程、吸い続ける。その為、テーブルに置いている灰皿には吸い殻がたまる。口紅がべったりとついたそれを、毎回処分する作業も非常に億劫であった。 「弁護士と相談して、離婚した時の慰謝料について、今すごいもめててさ……」 「ふーん」 テレビを観ながら、くだらない母の愚痴に付き合う。煙草の嫌な臭いもセットだ。また、今日もこれから小一時間は、愚痴を聞き続けるのかと思うと嫌気がさし、こっそりと溜息をついた。 数ヶ月後 担任から呼び出しを食らい、長々と出席日数や今後の将来について、説教を受けた後、 家路へと足を進めた。  今日も母は上がり込んでいるだろうか。そうであれば、最悪の一日だと考えにふけながら、アパートに到着した。 ドアを開ける。鍵はかかっていなかった。 (やっぱり……鍵は閉めてほしいんだけど) 毎回、母は上がり込む度に、鍵は閉めずにいる。危険だから、せめて閉めて欲しいとは、何度も懇願してきた。 しかし、水商売で酒を飲み過ぎ、思考回路の一部がおかしいのか、必ずと言っていいほど、鍵はかけてくれない。面倒だからの一点張りであった。  「お母さん?また来たの?」 ドアを開けた瞬間に、むせ返る程の煙草の臭いが花織の鼻を刺激する。その場で、若干むせながらも、部屋にいるであろう母に声をかける。 返事が無い。 いつもなら、気だるげな態度ではあるが、返事の一つは返してくれていた。今日は返してくれない。酒でも飲んで、酔いつぶれているのだろうか。 (ええ。面倒くさいな) 先月、お気に入りの美容師に染めてもらった、金髪の髪の毛を片手でいじりながら、部屋の中へと足を踏み入れる。リビングに繋がるドアを開けた。 テレビが点いている。何故か音量は最小に絞られているせいか、全く聞こえない。そして、いつもの席に母の姿は無かった。 「あれ?」
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