第零章 はじまりのはじまり

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その学校の名前を聞いた俊哉は驚いた。 神奈川陵應といえばここ6年間連続で甲子園へ出場している名門校である。 もちろん部内での競争は凄まじい物であることは安易に想像できるが、俊哉は秀二が十分やっていけるという確信を持っていた。 すると二人の元へ背が高く体格が良い少し濃い顔立ちの生徒が近づいてくると俊哉が手をヒラヒラとさせながら話す。 「お、君は我野球部の4番打者でこの全国大会で5本のホームランを放った優勝の原動力となった神坂龍司(かみさかりゅうじ)君じゃないか」 「・・・なんだその説明気味のセリフは」 と苦笑いをしながら返答をする神坂龍司(以降より神坂)は俊哉を見た後に秀二を見るとすぐさま口を開いた。 「俺も陵應へ行くつもりだ。そこでだトシ、お前も陵應へ行かないか?俺らと一緒に甲子園を目指さないか?」 「うおぉ・・・」 思わず口に出した情けないセリフ。 ここまでも真剣な目で神坂から甲子園、ましてや自分らと一緒に目指そうと言ってくるとは思いもしなかったのだ。 この秀二と神坂の二人は中学でも超がつくほどの有名選手で今年のリトルシニア選手権大会優勝へと導いた原動力の選手として、強豪校や名門校など引く手あまたである。 そんな彼らに対し俊哉はお世辞にも有名とは言えない選手であり、県内では明倭高校の他にも何校か声を頂いてはいるが、県外からは正直な所声などはかかっていない。 「陵應なら設備は勿論や環境は勿論だけど、俺らによってもより上に行けると思うんだ。トシもそうするべきだと思うんだ。お前も俺も。トシは自分を結構下に見てるけど、俺は違うと思う。」 まっすぐな目で言われる。 歯の浮くような恥ずかしいそのセリフを聞いた俊哉は内心とても嬉しかった。 秀二が俺と一緒に行こうと言ってくれることに感謝の気持ちさえ出てくるのだが、俊哉自身がこの選択が本当に正しいのかが分からなかった。 「うん、少し考えさせて・・・少し」 そう言葉身近に答え、その場はここで終了。 放課後となり俊哉は帰路につきながらポツリと呟いた。 「甲子園・・・か。」
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