瑕疵

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瑕疵

 きっかけは何だったか。  私は確か、何かの調べ物をしていた。ある夜、日常生活の中で些細な疑問を抱いた私は、それを自宅の建物に付属しているスピーカーに問うた。それでは満足する答えを得られなかった為、長い事放置していたパーソナルコンピューターを起動させ、疑問の件を検索にかけた。  私と同様の疑問を持つ者は少数なのか、私を納得させるような回答や、そのヒントにもヒットせず、私は長時間、ネットを徘徊することになった。  結局、私の疑問を解決する内容を探し出すことはできなかった。しかし、代わりというのではないが、私はインターネット上で道草を繰り返すうち、偶然、300年以上前からの古い新聞や雑誌、小説がアーカイブされたサイトに辿り着いた。  その内容は、暴力、性欲、権力欲、嫉妬、虚飾といった、あらゆる悪徳に塗れていた。私は人工知能から施された教育によって、前時代の人々が如何に愚かであったかを歴史として十分に知っているつもりだったが、当時、実際に流通していた情報を直接読み、唖然とした。  おぞましいものを見てしまった。第一印象はそれのみで、調べていた件さえどうでもよくなってしまった私は、PCを閉じた。その後の数時間、私はいつも通りに生活のルーティンをこなしていたが、その間、頭の中で先程見た画像や文字列は消えてはくれなかった。  私は、バスルームで体を洗った後、ベッドへは向かわず、PCの前に戻った。一度は目を背けてしまうほどおぞましいと思った記事に対して、私は、数十分読み込むうちにその刺激に慣れてしまった。  私の中で恐れる気持ちがなくなるにつれ、代わって当時の人々を嘲笑する余裕が生まれてきた。欲に憑かれた過去の人々の数々の過ちは、今の洗練された社会を生きる私から見て、野蛮で愚かとしか言いようがなかった。欲に憑りつかれてはいけない。調和を乱してはいけない。そう教育された。その反面教師がこの昔の人間たちの行いだったのだ。  成程、彼らは正しかった。現代社会において、これらの記事にある様な犯罪や破壊、不正はほぼ皆無であった。  私は、これまで自分が受けていた教育と、現在与えられている環境がいかに正しいものであるかを再認識し、満足して、その日は眠りについた。
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