ウサギ

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 ウサギさんは、心底驚いたという表情で、私を見つめました。そして次の瞬間には、こちらを軽蔑しているような、憐れんでいるような、はたまた優しく教え諭そうとしているような、そんな複雑な顔をして、こう言いました。  「お嬢さん。悪いことは言わない。そんな儚い夢は、諦めた方がいい。君の家の財力なら、大学にも問題なくいけるし、君の努力次第で、留学に行って、自分に箔を付けることだって出来る。そうすれば、超売り手市場の、このご時世だ、就職だって余裕だろう。それなのに、『作家になりたい』だなんて、そんな幻想を追ってはいけない。お父さんが悲しむよ」  「幻想かどうかなんて、そんなの、やってみなきゃ分からないじゃない。それに、自分の気持ちに逆らってまで無理矢理サラリーマンになったって、そんなの、幸せな人生じゃないわ」  「ふん、『幸せな人生』か・・・君はまだ、この世のことがよく分かっていないんだね」  ウサギさんは口を歪めてフッと笑うと、こう言いました。  「いいかい、『幸せな人生』ってのは、『立派な大人』として生きる人生のことさ。で、この『立派な大人』ってのは、何の天賦の才にも恵まれなかったわれわれ平民にとっては、『立派な大学を出て、立派な企業で働いて、他人が羨むような生活を送る人』のことさ・・・君も、いずれ分かる日が来るよ」  そしてふと、自分の腕時計を見たウサギさんは、     
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