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「ああいけない!約束の時間に遅れちまう!急がなければ。ああ、忙しい忙しい・・・」
と言って、どこかへぴょんぴょんと向かって行きました。
私は、そんなウサギさんの後ろ姿を、悲しい気持ちで見つめていました。悲しい、というのは、自分の夢を否定されたからではありません。そうではなくて、スーツを着たウサギさんの足下から、美しい純白の毛が、ちらりと見えたからです。
ー「立派な大人」っていうのは、自分本来の、あの美しい毛を、真っ黒なスーツで覆い隠して、それで得意気でいる人のことなのかな・・・ー
そう思うと、無性に悲しい気持ちになるのでした。
ー違う・・・自分が「立派」かどうか決めるのは「私自身」だ。他人が羨ましいと思うかどうかなんて、関係ない。私が、それに納得出来るかどうかなんだ。自分が納得出来ないなら、いくら有名な大学を出たって、いくら名の通った企業で働いたって、意味はない。絶対に、そうだ・・・ー
妙な憤りと共にそう思った時、誰かが私を呼ぶ声が聞こえました。
ーアリス・・・おい、アリス、いい加減起きなさい・・・!ー
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