0人が本棚に入れています
本棚に追加
「全然意味がわからんかったから説明してもらったんだ。なんでも良き生があるように名前をもらうことと同じように、良き終わりを売ることを生業にしているとかなんとか」
「確かに死に際は華々しく終わりたいもんだと思って、ここは1つ終わりを売ってもらおうと思ったんだ。酔っとったから。自分で理想の終わりを紙に書いて渡したんだ」
「代金は?と聞いたら後払いだから金はいらないとかなんとか。まぁただの願掛けみたいなもんかとサインしてから帰ったんだ。そうそう、最後に良き終わりをとかスカしたことを言っとった」
なるほど。別段何も無いただの占いの話かと私は思えたのだ。
「ところでどのような最期を書いたのですか?」と聞いてみた。
「そこだけがすっぽり出てこん。ただ畳の上で大往生とかそんなんではない気がするんだ。それが不安でたまらんのだ。大分酔っとったから。」
「大体わかりました。でも裏を返せばその状況にならない限り死ぬことはないんですよね。ある意味簡単には死なないのではないですか?」
「確かにそうなんだが・・・・・・・・・・・」
男性は手で顔を覆ったまま突っ伏した。少しの沈黙が流れた。
そのとき機内が揺れたのだ。そしてアナウンスが流れる。
「ただ今本機は気流の影響を受け・・・・・・・・・ご安心ください。」
アナウンスが終わるとまた揺れた。大分気流が悪いのか。そう思っていると横からつぶやきが聞こえた。
「子供がジュースをこぼす」
4つ先の通路の子供がジュースをこぼした。
「赤ちゃんが泣き出す」
どこか遠くで赤ちゃんが泣き出した。
「CAさんがこける」
やってきたCAさんがこけた。
私は混乱した。見えていないはず。それよりも先に言い当てている?
「怒号が聞こえだす」
すると悲鳴が起きた。なにやら先のほうで起こっているらしい。
どうなっている?急激な状況の展開にわたしはただただ狼狽していたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!