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私はいま海岸から内陸に向けて坂を少し登った所にある小高い崖のような丘に来ている。そこには、コンクリートでできた無機質な骨組みだけが残された建物が1つぽつんと建っている。なんでも、古くなった祭祀施設を移設する予定だったそうだが、度重なる水害により工事は途中で中止され、祭祀施設は結局そのまま海辺に設置されることになった。
「大丈夫、怖くない。私ならきっとできる!」
私は自分に言い聞かせるように何度も肯定的な言葉を呟く。ここに来たのは、里美と1体1で話し合うためで、いざ直前になると緊張と不安で気が滅入りそうになる。
「でも、本当に来る・・・よね?」
里美には前日の内に場所と日付を記した一通のメールを送信しておいた。しかし、わざわざ私に会いに来るだろうか、本当に1人で来るだろうか。頭の中で思考が交差し合い、額から汗が滲み出る。
「こんな気味悪いところを待ち合わせに選ぶなんて度胸があるじゃない」
必死に自分を落ち着かせようと地面を見つめていると、遠く前方から声が聞こえた。本当に来た、あの髪を派手に彩った容姿は里美に間違いない。
「ここは、玄武様の祠の移設予定地だった場所よ、何も気持ち悪くないわ。自分で呼んどいて何だけど、本当に来てくれるとは思わなかったわ」
強気な態度を誇示してはいるが、正直なところ立っているのもやっとで、恐怖に腰がすくむ。
「そりゃあ、来るわよ。今度こそあんたを殺して、あんたが死んだ姿を見届けないと安心できないからね!」
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