翡翠の主

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 鳥を撮ること。それには忍耐力が必須である。  目当ての鳥が現れ、止まってほしい場所に止まり、向いてほしい向きを向くのを待つ。最高の瞬間を写すためだからこそ、焦らず待つことが大切なのである。  この湖は、鳥(とり)見(み)、すなわちバードウォッチングを道楽とする人々の間では、翡翠の宝石箱とか採掘場などと呼ばれているらしい。その由来は、翡翠と同じ字を持つカワセミと言う鳥が多く見られることにある。  カワセミとは、頭から背中にかけてライトブルーに染まった、水辺にすむ鳥である。その美しさのわりに、比較的身近で目撃しやすいため、鳥見玄人からも素人からも大変な人気ものだ。青いと言うだけで写真映えするし、幸せの青い鳥と言うように、見るだけで幸福感に満たされる。彼らが現れると、立派なスコープや望遠レンズを抱えた人たちの塊ができるほどだ。しかし、この湖に住むカワセミたちは少し違った。
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