第二章 進路は、あらぬ方向へ

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「あの時のわたしは、魔法で青白い顔の別人に変身していたのですよ。だが、あなたの目には通用しなかったようだ。私の容姿について、ユルスラさんと言い争いをする声が聞こえましたからね。それと舞踏会の会場でも、ウィノアさんはわたしを見つけましたね。あれは議会長にデグランジュ氏の件を報告に行った時だったが、わたしは完全に透明になって気配を消していたのです。フォーマルな席なのに、この格好でしたからな。普通の人間はおろか、竜にだって見つからないはずだった」 「やっぱり、あそこにいらしたのね! それに雑木林では、魔法で顔を変えていたのですか? どうりで同じ人を見ているはずなのに、わたしの見た人物と、ユルスラの見た人物の風貌が違うのか、やっとわけがわかりました」 「仕事柄、素顔を隠さねばならない時がありましてね。普段は青白い男の顔を使っているのです」  レナードさんは快活に笑うと、いたずらを見破られた少年のような表情になってチョビひげをいじった。 「それで議会長にあなたの件も報告しましたらね。『まだ十五歳の女の子に、素顔を見破られるとは間抜けなゴーレム! 入念に作り上げてやったかいがないわ』と、大笑いをされてしまいましたよ。いやはや、あなたの感覚の鋭さには驚かされました」  レナードさんは苦笑いをしながらサングラスをはずした。そして山高帽をとると、紳士が貴婦人を前にするような、かしこまったお辞儀をした。 「どうか、じゅうぶんに右手の治療をなさってください。わたしもレースを見に来ます。そして陰ながら応援しますよ。デグランジュ氏に立ち向かった時や、お友達を抱えて二階から飛び降りた時の勇気はすばらしかった。そしてセヴィエル君やミス・シャーロット・ニューマンに対する優しい心遣い。うむ、言葉では言いつくせないほどにすばらしい!」  レナードさんにほめられて、わたしは瞬く間に頬が真っ赤になった。こんなふうに持ち上げられると、お尻のあたりがむずがゆくなる。へんてこな受け答えをする前に、この場を一秒でも早く退散した方がよさそうだ。  わたしはレナードさんにお別れの挨拶をしようとした。しかしレナードさんは、もう少し何かを話したいようなそぶりをする。 「あのう……。実はウィノアさんに、ひとつ尋ねたいことがあるのです」 「えっ、何ですか?」
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