第二章 進路は、あらぬ方向へ

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「いえね、たいしたことではないのですが……。わたしのこれ、どう思われますか?」  そう言うと、レナードさんは自分の鼻の下を指差した。彼の不思議なしぐさにわたしがきょとんとしていると、レナードさんは、「ひげです。この小さなひげをどう思われますか?」と、尋ね直してきた。 「ひげですか? そうですね……。とてもよくお似合いですよ」 「本当にそうですか? ではもうひとつ質問ですが、視力は悪くありませんよね」 「えっ、ええ。視力はいい方です。レナードさんはいつもサングラスをかけていらっしゃるから、もしかしたら怖い人ではないかと思っていました。でもサングラスをはずされたら黒い瞳がとってもきれいで、そのおひげがかわいらしいアクセントに見えます」  わたしは素直な感想を述べた。もちろん危ないところを助けてもらったので、ほんのちょっぴりお世辞も入れているが。するとレナードさんは、わたしの返事に小躍りした。 「そうでしょう! 実はこのひげを剃るべきかどうか迷っていたのですよ。そうか、似合いますか。嬉しいなあ! わたしは、すっかりウィノアさんのファンになりましたよ。いやあ、勇気を出して聞いてよかった!」  レナードさんは、わたしに向かってもう一度深々とお辞儀をした。そしてクルリと踵を返すと、スキップをするような足取りでわたしの前を立ち去った。わたしはしばらくポカンとしていたが、回れ右をして、ニヤニヤ笑いを浮かべて待っているユルスラの前に立った。 「助けてもらったのにこんなことを言うのも悪いけれど、レナードさんって変な人ね。でも、おかげで胸の痛みが軽くなったわ。実は、ほんのちょっぴりセヴィエルに恋をしていたの。ランプの中で弾けた魔女の火は、全然進展しないまま終わってしまったわ」 「あの竜はハンサムですもんね。恋敵は多いわ。だけどそれがニューマン先生なら、少しはあきらめがつくざんしょ? だけどもあの恋占いは、はずれることがないはずだけどなぁ。もしかしたらウィナの恋は、相手が違うのかもしれないわ。だとすると、本当の相手はいったい誰かしら?」
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