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「バカね! そんな人がいるわけがないでしょう! それよりも大急ぎで右手の治療をしないと。レースは今週末なのよ」
「それでは我が家へ参りましょう。あたしも足が痛くてたまらない。それはそうと、ウィナ、ケンカしたりしてごめんね」
「わたしこそ」
「許してくれる? お詫びの印として魔女の持ち物をひとつあげるわ。幸運を呼ぶわよ」
「そんな、いいのよ。もう、すでにもらっているから」
「あら、何を?」
「ハンカチよ。海岸での初練習日に借りたものを、まだ家に持っているの。きれいにお洗濯をして帰すつもりが、仲たがいしたままになっていたから」
「本当にあれでいいの? 使い古しよ」
「ええ、もちろん。幸運を呼ぶ魔女のハンカチを手に、いざ行かん、成竜の儀式へ!」
わたしが掛け声をかけると、ユルスラはそれに応えてこぶしを空へと突き上げた。
「いざ行かん、ドラゴン・レースへ! ウィナ、心を込めて応援するわ」
「ありがとう!」
わたしはユルスラに肩を貸した。すると黒服の魔女は、わたしの右手を気遣いながら、そっと身体をあずけてくる。わたしは晴々とした気持ちで歩き出した。
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