誘拐犯はチャイムを鳴らす

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 「どうぞ」  「ありがとう」  こたつの天板の上に湯呑みを置くと、おじさんは嬉しそうにお茶に口をつけた。実は、お茶を入れたのはこの時が初めてで、どのくらいお茶っ葉を入れればいいかだとか、温度はどれぐらいかといったことは全く分かってなくて、ただお茶の葉を急須に入れてお湯を入れてしばらく待てばお茶になるという知識しかなかったので、お茶を飲むおじさんを見つめながらダメ出しされないかドキドキした。  おじさんが湯呑みから顔を上げる。  「ふたりは今、幾つなの?」  「私が小学4年生で、妹の和葉(かずは)は3年生です」  「じゃ、うちの千早(ちはや)は、美都ちゃんの1個上だな。あとね、もっと大きい中学生のお兄ちゃんもいるんだよ」  まだ見ぬ従兄弟の話に興味をそそられ、親近感を覚えつつも、家族の話をして油断させるつもりなのかもしれないと頭の片隅で警報が鳴る。  壁の時計を見上げると、まだ2時にもなっていない。お母さんが帰ってくるのは早くても4時過ぎで、まだまだ長かった。こんなにお母さんが帰ってくるのが待ち遠しいのは、鍵をふたりとも忘れてマンションの外階段で座って待っていなくちゃいけない時以外なかった。  おじさんも共通の話題のない、子供2人を相手にすることを持て余したのか、湯呑みのお茶を飲み干すと、立ち上がった。  「ちょっと、ドライブにでも行こうか」
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