24人が本棚に入れています
本棚に追加
おじさんの車はマンションから少し離れた道沿いに停めてあった。
「さぁ、乗って」
白のセダンの後ろの扉をおじさんが開けてくれる。さっきまで嬉しそうにしてたくせに、躊躇した様子を見せる妹に、仕方ないので私が先に乗り込むことにした。よその人のお家をもっと濃くしたような臭いがして、落ち着かない。
「シートベルトしてね」
そう言われたものの、タクシーすら乗ったことがない私たちには、シートベルトのつけ方がよく分からない。ベルトを引っ張って体に回したりしていると、おじさんが後ろから身を乗り出して手伝ってくれた。『ありがとう』と言いたかったけど、シートベルトのつけ方も知らないのか、この子たちは……と思われてるんじゃないかと思うと恥ずかしくて、口に出せなかった。
二人とも正しくシートベルトを装着したところで、おじさんが正面に向き直った。
「出発しようか。さぁ、どこがいい?」
そう聞かれたところで、私は妹と顔を見合わせるだけだった。どこと言えば、安全に家に帰してもらえるのだろう。不安が過る。
順応性の早い妹は車でのドライブにすっかり気を良くし、徐々にこの非日常な空間にも慣れ、饒舌になっていった。
「おじさんが誘拐犯じゃないかって、こわかったんだよー」
「ふふっ、まだ分からないよ。おじさんがもし二人を誘拐して、どこかに連れてっちゃったらどうする?」
「キャーッ!!」
完全に妹は取り込まれていた。せめて私だけは、気をしっかり持たなくては。
車の扉に手をかけ、何かあればすぐにでも逃げ出せるよう準備をした。
最初のコメントを投稿しよう!