誘拐犯はチャイムを鳴らす

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 おじさんの車はマンションから少し離れた道沿いに停めてあった。  「さぁ、乗って」  白のセダンの後ろの扉をおじさんが開けてくれる。さっきまで嬉しそうにしてたくせに、躊躇した様子を見せる妹に、仕方ないので私が先に乗り込むことにした。よその人のお家をもっと濃くしたような臭いがして、落ち着かない。  「シートベルトしてね」  そう言われたものの、タクシーすら乗ったことがない私たちには、シートベルトのつけ方がよく分からない。ベルトを引っ張って体に回したりしていると、おじさんが後ろから身を乗り出して手伝ってくれた。『ありがとう』と言いたかったけど、シートベルトのつけ方も知らないのか、この子たちは……と思われてるんじゃないかと思うと恥ずかしくて、口に出せなかった。  二人とも正しくシートベルトを装着したところで、おじさんが正面に向き直った。  「出発しようか。さぁ、どこがいい?」  そう聞かれたところで、私は妹と顔を見合わせるだけだった。どこと言えば、安全に家に帰してもらえるのだろう。不安が過る。  順応性の早い妹は車でのドライブにすっかり気を良くし、徐々にこの非日常な空間にも慣れ、饒舌になっていった。  「おじさんが誘拐犯じゃないかって、こわかったんだよー」  「ふふっ、まだ分からないよ。おじさんがもし二人を誘拐して、どこかに連れてっちゃったらどうする?」  「キャーッ!!」  完全に妹は取り込まれていた。せめて私だけは、気をしっかり持たなくては。  車の扉に手をかけ、何かあればすぐにでも逃げ出せるよう準備をした。
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