誘拐犯はチャイムを鳴らす

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 すぐ近くの電話機が置いてある台の戸棚に入ってるはずの住所録を探していると、妹が好奇心丸出しで尋ねてきた。  「お姉ちゃん、どうするの?」   「今から、お父さんの会社に電話する」  「えっ、ほんとにお父さんの会社に電話するの!?」  「うん……」  妹はまさか、おじさんに言われたことを私が実行するとは思ってなかったみたいだ。妹の反応により、緊張は一気に20倍増しになった。  茶色の年季の入った住所録を手に取り、五十音順に入ってるタグから『サ』を指で押し、ページを開く。  あった……株式会社 サトウ  一瞬、『か』じゃないのかと思ったけど、そんなことは今はどうでもいい。重要なのは、これからこの会社に電話しなければいけないことだ。突然娘から電話がかかってきたら、お父さんはビックリするんじゃないかと、不安になった。  電話番号を心の中で何度も繰り返して頭に覚えこませると、意を決して受話器を手に取る。『ツー』という無機質な電子音でさえ、私の心を波立たせる。  それでも、しっかり者のお姉ちゃんであることをアピールするかのように、指で番号を押していく。最後の番号を押し終わると、『プツツ、プツツ……』という音の後、電話が相手に繋がった通話音へと切り替わり、心臓がバクバクと忙しなく鳴り響く。  『はい、株式会社サトウでございますー』  若い女の声が聞こえ、ビクッと体を震わせる。
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