誘拐犯はチャイムを鳴らす

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 「あ、あの……川越浩史の娘です、が……父は、いますか?」  喉がぺったんこになってくっついたみたいに声がうまく出せず、ひっくり返りそうになったりよろけたりしながらも、なんとか声を前に押し出した。  『ぇ……川越さんの、娘さん? あぁ、はいはい。ちょっと待っててね』  相手は私が小娘であることを知ると、少々横柄な態度になった。けれど、そんなことを気にするような心の余裕はなかった。  受話器の向こうで、『トルコ行進曲』が流れている。『チャチャチャーン!』と力強く音が聞こえる度に心臓が踊り出し、どこかへ旅立ちそうになる。  お父さん、何してんのかなぁ……早く出てよぉ。  『ガチャッ』という音が響き、息を吐き出したことにより、自分が今まで息を詰めていたことに気づいた。  『ん……美都か? どうしたー?』  想像してたより間の抜けた声が響いてきて、思わず脱力しそうになった。こっちはこんなに必死の思いで電話かけてきたんだから、それなりの誠意を見せて欲しいと思ったが、そんなことを今ここで説明したって仕方ない。  「あの……今、家の前に大分の田川おじさんって人が来てるんだけど」  『えぇっ!?』  今度こそ、お父さんは私が望んでいた反応をくれた。  「それで……家にあげても、大丈夫?」  お父さんの機嫌を窺うかのように、上目遣いで声に出した。私と妹の運命は、今お父さんの手に委ねられていた。
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