誘拐犯はチャイムを鳴らす

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 『あぁ、お母さんも夕方にはパートから帰って来るだろうし、それまで家で待っててもらって』  再び、間の抜けた声が返される。  お父さん、それで間違いないの!? 本当に、後悔しない?  もしかしたらこの人は誘拐犯で、私たちのことを拐うために現れたのかもしれないんだよ!?  心で叫んではみたものの、私はそれをお父さんにぶち撒けることはしなかった。  『さっき水谷さんから呼び出されて、娘さんから電話なんて言われたから、何があったかと思ってビックリしたけど、そんなことだったのか』  私にとっては大事件でも、お父さんにとっては大したことではなかったのかと、失望が胸に広がった。  「……じゃ、切るね」  『あぁ。まぁ、お茶ぐらい出しといて』  「うん。分かった……」  静かに受話器を切る。これから、誘拐犯かもしれない男との対面が待っているのかと思うと、海の底に沈んでいくかのような気持ちになった。
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