悪意の老婆

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ポクポク、ポクポク。 ―千佳子さん、もしかしてあんたも泣いてるのかい? おいおい、恐ろしい女だねえ。 あんたがあたしを嫌ってたことくらい、あたしがわかってないとでも思っているのかねえ。 あたしは知ってるんだから。 あんたが近所であたしの悪口を言いふらしていることくらい。 まったく酷い女だよ。あたしはあんたが言うような嫌がらせなんて一切した覚えはないのに。さも意地悪な姑のように言うんだから。 そりゃあ、多少の仕返しはさせてもらったけどね。 ・・・まあなんでも、お腹の子のためにもストレスは良くないとか言って、あたしを施設に追い出そうとしてたんだろう? 毎晩のように晴夫にそう言っているのを、あたしはちゃんと聞いてたんだからね。 まったく愚痴を聞かされる晴夫の方もたまったもんじゃないよ。 終いにはこの女、あたしのご飯に毒を盛ってたね。それもばれないように少しずつ。 最近妙に食べ物の味がおかしいと思ってたんだよ。この女ならきっとやりかねないよ。 恐ろしいったらありゃしない。 今頃あたしが死んでせいせいしてるはずだよ。 ポクポク、ポクポク。 ―おい晴夫。 さっきから俯いているけど、笑いでも堪えているんか? お前、会社を辞めさせられたこと、まだ千佳子に言っていないんだろ? 情けないねえ。 あんたから遺産相続の話をしてきた時は驚いたというよりも、むしろ怒りが湧いてきたよ。 そんなこと言わなければ、あたしだって少しくらい遺してやろうって気にもなるっていうのにね。可愛い孫たちのためにもさ。 それにあんた、千佳子に言い包められてあたしを家から追い出そうとしてたじゃないか。 なんて図々しいんだい。あたしはそんな風に育てた覚えはないよ。 ポクポク、ポクポク。 ―久実。 お前の目で見られると、なにもかも見透かされているような気がして、あたしは辟易してたんだ。きっとあたしのことを虫けらかなんかみたいに思っていたんだろう? 兄貴の俊平やなんかと違って、小遣いをくれてやってもあんたは見向きもしなかったね。 あんたはうちの連中の誰よりも賢かった。 今だって家族の誰よりも落ち着いてる風に見えるよ。 まったくその年で立派だと思うよ。あんたはね、将来きっといい女になる。 ただ、あんまり物事に首を突っ込み過ぎるのはよした方がいいな。余計な正義感なんてさっさと捨てちまいなよ。 これはあたしの善意による忠告だがね。
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