独りの逆転

「あなたは今も独りなのね」と同期の女性に言われた。

彼女は女子高時代の同級生。かつて私は彼女をいじめていた。
理由なんてない。ただ、いじめやすかっただけ。
「遊びのつもりだった」「いじめと思わなかった」と言えば
“周り”は許してくれた。

しかし社会人になってから、私はいじめられる側になる。
適当に仕事をしてればいいと世間を侮っていた。
やがて同期は仕事を任せられるようになり、私は上司に怒られる標的に。
わずかなミスも罵倒のネタになる。
同期も先輩も助けてくれない。私は独りぼっちだった。

「そんな小さなミスで業務を止めないで下さい」
上司に堂々と意見を言えるのは彼女だけだった。
海外の大学を出て、キャリアを積んでの途中入社だったが
社長のお気に入りで誰も文句を言えなかった。
彼女のお陰で少しずつ業績が上がっていったのもあり
誰もが憧れる存在だった。

助けてくれたお礼を言おうとした時、「あなたは今も独りなのね」と言われた。
その時彼女をいじめていた事を思い出した。
「仕事の効率が悪くなるから言っただけ。あなたを助けたわけじゃない」と
彼女はその場を去ろうとした。
「待って！『今も独り』ってどういう意味？」私は彼女に尋ねた。
「…あなたが私をいじめていた時、周りの人はあなたの味方じゃなかった」
彼らは何もしなかっただけで、
一緒にいた子達も好き好んでいじめに加担してたわけじゃなかった。
それを知ってから私はいじめられても平気だった、と。

高校を卒業するまでに、彼女は将来を見据えて準備をしていたのだ。
二度と誰からもいじめられないように。
しかし私は何も知らずに…
「だから今も独り。あの時とは立場は逆転してるけど」
憐れむような表情で彼女は答えた。

彼女が自分の持ち場に戻った後も、私はその場を去る事ができなかった。

最後に言った彼女の言葉が突き刺さる。
「いじめてくれてありがとう。でなきゃ今の私はなかったもの」
今の私は、高校の頃の彼女より未熟なのだと思い知らされた。