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モルはびくりと肩を震わせる。そうそう、私が本気で怒ると、この子はこんな反応をするんだった。
「もう私のことは忘れて。それよりも、あなたを必要としてる人たちの世話をしてあげてよ」
「でも、今〈ヴィーゲ〉を止めてしまったら、君はどこにも帰れない。ここに意識を移したから、君の身体はもう朽ちてしまったんだ」
「いいよ、別に。あの身体へ戻ったって、また死人同然の私になるだけだもの」
「僕がよくない。これは罪滅ぼしなんかじゃないんだ。僕が君ともう一度会いたいから、いつまでも君といたいから、それで……」
「だったら、なおさらだよ。そろそろ私を離さないとダメ。あなたはもう、大人なんだから」
悲鳴のような軋みを上げて、観覧車が回転を止めた。ゴンドラの照明が落ちて、モルの顔がわからなくなった。
「……結局、僕は君にとって、ガキのままだったんだね」
「そうやって拗ねてると、余計子どもっぽいよ」
私はシートから降りて、彼の目の前に立った。
モルの口は、煙草臭かった。悪いことを覚えてしまって、お姉さんとしては寂しい限りだ。
「ほら、もう行って」
電飾たちが、力尽きたように消えていく。もっと早く来るべきだった閉園の時間が、ようやくやってきた。私のわがままが、そして私自身が、暗闇の中に溶けていく。
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