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「やあ、こんなところにいた。どうしたんだい?」
「ごめんなさい。ちょっと、一人になりたくて」
「恐いのかい、〈ヴァルト〉の外が」
「……うん。変だよね、あんなに大人になりたかったはずなのに」
「変じゃないさ。それだけ〈ヴァルト〉の生活が、君にとって大切だったってことだよ」
「ここを出て行っても、私、ちゃんとやっていけるかな。外の世界なんて、もう何十年ぶりか分からないよ」
「心配かい? 無理もないね、君たちにとっては、ほとんど初めてみたいなものだ」
「ねぇ、大人って、ほんとに楽しいもの?」
「今さら何言ってるんだ。大変に決まってるんだろ、自分の足で歩かなくちゃならないんだから」
「……やっぱり」
「でも、楽しいこともある」
「え?」
「煙草が吸える、とかね」
「なにそれ、全然嬉しくない」
「僕もそう思ってたさ。でも、案外悪くないもんだよ」
「うそ。吸ったことあるもん。苦しいだけで、全然よくなかった。やっぱり私、出て行かない」
「まあまあ、そう言わずに、試しに出てみたらどうだい。もしどうしても耐えられなかったら、いつでも僕のところに戻っておいで。歓迎するよ」
「……ほんとに?」
「もちろん。僕は君たちのお父さんだからね」
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