2

3/7
前へ
/17ページ
次へ
 この街には、子どもしか住んでいない。正確には、子どもに見える奴しか住んでいない。彼らは十歳かそこらで成長が止まってしまう体質の持ち主で、ここはそんな病人たちを治療するための街だから。  国がこの〈ヴァルト〉という街を作り上げたのは罪滅ぼしのためだと、モルのじいさんから聞いた。なんでもここの住人たちは、国が計画した実験の被験体らしい。内容までは知らないが、おおかた老化を止める方法でも探ったんだろう。  そして、それは失敗に終わった。連中は齢をとらない体を与えられた代わりに、まともな魂を奪われてしまった。つまり、投薬を受けていないとたちまち壊れるような魂になってしまった。  被験体たちは実験の失敗を黙っている条件として、薬を要求した。それも、はじめに国が用意した心を保つための薬だけじゃなく、きちんと大人になれる体にしてくれる薬も。お偉方は顔を青くしておねだりを受け入れ、被験体たちと指切りをしたうえで、彼らを〈ヴァルト〉に閉じ込めた。そうして大人になれる薬の開発と街の管理をモルのじいさんに任せて、失敗作から目をそらしたらしい。  ぜんぶ、俺が生まれるより前の話だ。だが、大人になれる薬はいつまで経っても出来上がらない。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加