あちら側

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
私は、死んだのだと思う。 気が付けば、見知らぬ町にいた。 灰色の、高いコンクリートの建物が連なる階段の町。 装飾もなく、見事なまでに真四角の無機質なビルの連なり。機能的で無駄がなく、私は嫌いではない。 空が狭いのと、それから、住人がやたらに重苦しいのが気にかかる。 誰も彼もが目を伏せて、少しばかり猫背になって歩いている。 あちこちから聞こえるすすり泣き。覆った手の隙間からこぼれる慟哭。 何を泣くのか。 なぜ、哭くのか。 死んでしまったというのに、今更、何を嘆くのか。 こんなにも、心も身体も、軽いのに。 不思議に思って、私は周囲を見回す。 大きな傷のある人もいて、時にはぎょっとする。 でも、それだけで、あとは今までと変わらない。 誰も彼も、自分のことだけで手一杯。 いや、そうではないのか。 生きていた頃とは違うこともある。 疲れないのだ、どれほど歩いても。 私の住む町には、とても長い階段がある。 というよりも、平たんな道がない。 ずっと階段なのだ。 踊り場のような広場が少しあるくらいで、あとは延々、階段で構成されている。 私はそこを、上ったり下りたりして、日々過ごしている。 することが、ないのだ。 何をすればよいのか、わからないのだ。 部屋は建物と同じで、灰色で真四角で何もなく、疲れもしないから眠りもしない。 食事もいらない、とすれば、当然排泄もない。 だから、することがないのだ。 もう、部屋には幾日も帰っていない。 帰ったところで、隣人たちのすすり泣く声を、朝から晩まで聞き続ける羽目になる。 そんなのは、ごめんだ。 だから私は、延々と続く階段を、ただただ、どこまでも下りていく。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!