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そういえば、授業の前にこんなことがあった。僕が廊下を歩いていると、そこでキャッチボールをしていた上級生の一人が、僕の後頭部にボールを当てた。「わりーわりー」とか言いながら、投げた方の上級生にボールをトスした。ところが、僕が再び歩き出すと、今度はもう一人の上級生が僕の顔面にボールを当てた。「おっと、わりー」。彼の口から洩れたこの言葉によって僕に走った感情は、怒りでも悔しさでもなかった。硝子。自分が今まさに、上級生にとってのそれなのだと実感し、急に虚しくなった。ゴム質のソフトボールが頭の前後に当たった後遺症のように、僕の口はぽかんと開かれたまま、閉じることを暫く忘れていた。
「作者から見て、位置関係としては、作者が見上げるような形ですね。つまり、この白鳥はただ作者から見て独りなだけという訳ではありません。孤高、という表現が一番この白鳥を表すのに最適な表現、ということになります。」
孤高。その二文字は、僕に衝撃を与えた。孤独ではなく、孤高。それは血の池地獄から、磁石で無理矢理浄土極楽へ引き上げられるような感覚だった。柔らかいソフトボールによって窓硝子が割れ、その欠片が宙に舞い上がり、白鳥と化して、高く、遠くへと羽ばたいてゆく姿が脳内でイメージされる。ひたすらに青い空の中で自分の白を表現する様を想像するのに、蜘蛛の糸はいらなかった。
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