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膝立ちでいる男の腹を蹴る。軟らかい肉の感触に、思わず笑ってしまう。
男の腹を蹴る。加減して蹴る。すぐにはだめにならないように。
腹を蹴る。
蹴る。
蹴る。
蹴る。
何度も何度も、何度でも蹴る。くすくすくすくす。
肉と内臓の感触。くすくすくすくす。
くすくすくすくす。
どれくらい経ったか。膝立ちの姿勢でひたすら蹴られ続けていた男が、初めて口を利いた。
「誰だ」
わたしは顔を上げ、男と目を合わせる。わたしのこと?
「……誰だ、てめえは。なんで俺を」
気づいたら、わたしの小さな脚が男の腹にめり込んでいた。力一杯蹴ったせいか、何度蹴っても倒れなかった男が崩れ落ちる。
するとわたしの目の前が白く眩んで、思わず目蓋を閉じた。
あーあ、やりすぎちゃった。
次に開けると、目の前で男が布団に転がっていた。寝相が悪かったのか、捲れた服から覗く腹には、夥しい数の痣がついている。
ビールの空き缶が散らばる薄暗い部屋の中、わたしは朝日に透ける手を伸ばして、男の胸に触れる。
静かだった。
……くすくすくすくす。
わたしのこと、忘れちゃったの。そうだよね、わたしの顔、知らないもんね。
あのね。
「あなたがけったせいで、わたし、おかあさんとバイバイしちゃったの。おかあさんのなか、ゆらゆらあったかかったのに。あとちょっとだったのに」
ねえ、
「おとうさん」
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