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 虹の麓には宝物が眠っているという。  虹色の傘を手にしたすらりとしたその人は、傘をくるくると回してにんまりと笑った。  わたしはその人の笑顔が妙に眩しく感じて、僅かに目を細めた。  それでも、そのひとがつけている七宝焼きのブローチが、妙に目の奥に残る。  きらきら、ちかちかと輝くように光るブローチは、まるで虹をかき集めたプリズムのようにも見える。  ――ほら、もうすぐ虹もでましょうよ。  その人は涼やかな声でそう囁き、ふわりと微笑むと、また傘をくるくると回す。  紳士淑女といった佇まいのなかで、傘を回すという行動がどこか子どもめいていて、印象に残る。  細かい雨の降るなかで、その人の艶やかにも思える笑顔が、煌めくブローチが、眩しいくらいだった。  そして確かにその人の言うとおり、程なく雨も上がった。  それでもその人は傘を広げたまま、くるくると回し――ふわりと宙に舞う。まるで重力なんか感じないくらいの軽やかさで。  その人はそのままふっと消えてしまったけれど、その人の消えた方角を見ていると、すっと七色の柱が立ち上った。  綺麗な虹。  あの人はやはり虹だったのだなと、改めてわたしは感じた。
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