誰も知らない、君のこと

9/11
前へ
/11ページ
次へ
   *   三年の終わりになると、アルバイトと日々の課題に加え、インターンに就職活動の準備と地獄のような忙しさが続いた。  相変わらず成績のよくない俺は、いまいち将来に希望を持てていない。でも、なんとか映像系の会社に入れるよう努力はしてみるつもりだ。  あの日から二年、教授はたまに俺に話しかけてくれるようになった。  講義の終わり、ほんのたまに、映像の話を聞いた。将来のことを相談した。こうして俺のことを真っ直ぐに見てくれる、教授には感謝しかなかった。  ある日、講義終わりに教授が校内新聞を持って俺のところにやって来た。  それは毎月学生が発行している、大学に関する新聞だ。新しい職員の紹介や施設の案内、そして在校生や卒業生の活躍を掲載している。  中を開くと、あるページに付箋が貼ってあった。そこにはうちの大学を中退した元生徒のインタビューが載っていた。自分の服のブランドを立ち上げ、今ネットショップで順調に売り上げを伸ばしているらしい。  教授によると、その人は二年前〝現代アニメーション論〟に参加していた生徒だそうだ。懐っこい子で、よくお喋りをし、実はそこで俺の話も出てきたらしい。  俺はそのインタビューを読んで、つい笑みを浮かべてしまった。  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加